眼瞼下垂(がんけんかすい)

保険診療

眼瞼下垂とは?

眼瞼下垂とは簡単に言えば、まぶたが下がり、開きにくい状態になっていることです。

まぶたはその奥の方にある眼瞼挙筋という筋肉の働きで開きます。
眼瞼下垂は以下の2種類に分けることができます。

  1. 生まれつきその眼瞼挙筋に異常がある先天性眼瞼下垂症(せんてんせいがんけんかすいしょう)
  2. 年をとるにつれて、瞼の開きに問題を生じる後天性眼瞼下垂症(こうてんせいがんけんかすいしょう)

また、上記以外にも後天性眼瞼下垂症は挙筋の腱膜と瞼板が離れてしまったために起こる腱膜性眼形下垂と皮膚のたるみによって起こる皮膚弛緩症(ひふしかんしょう)に分かれます。腱膜性眼瞼下垂は加齢に伴う場合だけでなく、白内障などの手術を受けた人やコンタクトレンズを長期間使用している人にも発生しやすいと言われています。手術を希望される方の9割以上が後天性です。眼瞼下垂の原因は個人差があり、腱膜性と皮膚弛緩症が共存する場合、腱膜性のみ、皮膚のたるみのみだけ、と様々です。
h5>眼瞼下垂の症状は?

普通の状態で黒目は約2/3ほど見えていることが多いですが、眼瞼下垂の眼はまぶたが黒目の部分に被さってくるため、黒目部分が細くなり、症状が進むと黒目の1/2くらいしか見えなくなることもあります。
まぶたの動きだけでは目を開きづらくなるので、額の筋肉を使って眉ごと引き上げることで目を開けようとします。そのため眉毛の位置が高くなり、額のシワも増えてきます。まぶたをがんばって引き上げようとするため、まぶたの上半分~眉毛の下が窪むことがあります。
これらの事は片目にも両目にも起こりえます。

その結果、「視界の上の方が見えづらい。」、「まぶたが重い・疲れる。」、「目が開きづらい。」などの症状が現れます。また、無意識に額の筋肉を使っているので、頭痛や肩こりの元になっている場合もあります。

以前であれば「もう年だから・・・。」など言われ、不自由な状態のまま過ごされた方も多かったのではないかと思いますが、最近はテレビでも眼瞼下垂の特集が組まれたりしているので、多くの患者様に認知されることとなってきています。それに伴い、お問い合わせ・治療の件数も近年増加している疾患の一つです。

眼瞼下垂の治療は?

眼瞼下垂の手術方法は、先天性で眼瞼挙筋の働きがほとんどない場合と、腱膜性眼瞼下垂などの後天性の場合とでは大きく異なります。
当院では、先天性の一部のものを除き、基本的に眼瞼挙筋短縮前転法を基本とした術式を用いています。
症状により、皮膚・眼輪筋・脂肪組織の切除を追加したりしますが、保険適応となる症状であれば術式によって費用が異なることはありません。手術に際しては当然ながら美容的な側面にも十分注意を払い、術後の内出血が出来るだけ起こりにくいように工夫をし、切開線も目立ちにくくなるように仕上げています。
先天性の場合でも、いくらかでも筋肉の働きがあれば、通常はまず「挙筋短縮前転法」が適応になります。しかしこの方法で効果がない場合は「吊り上げ法」による手術が必要となってきます。
なお、当院では後天性眼瞼下垂(腱膜性眼瞼下垂、皮膚弛緩症)の治療のみを行っています。先天性眼瞼下垂の治療は残念ながら行っておりません。ご理解のほどよろしくお願いします。

実際の手術

まず、椅子に腰掛けた状態で、左右の目の開き具合の差、二重の状態、まぶたの皮膚の厚さ、眼瞼挙筋の機能等を確認します。それらの結果に基づき切開線の位置、皮膚の切除量等をデザインします。きちんとした結果を出すには術前のデザインが極めて大事です。

デザインが終わると手術台の上で局所麻酔・消毒を行います。局所麻酔は痛みを出来るだけ軽減するためと内出血の可能性を出来るだけ減らすために極細針にて注射をしていきます。
(1) 腱膜性眼瞼下垂の場合―眼瞼挙筋腱膜前転法
最初に術後の二重のラインとなるところで皮膚を切開します。皮膚の余りがある場合には皮膚の切除を行います。眼瞼挙筋腱膜を確認し、この腱膜を前方(下方)へ引き出し、瞼板の上部に縫合糸にて固定します。その後、一旦体を起こし、開眼していただき、黒目の見え方を確認します。必要に応じて腱膜の固定を修正することで、黒目の見え方を患者さんの一人一人によって微妙に調整しています。最後にキズが出来るだけ目立ちにくくなるよう、形成外科的手技と細い糸を用いて皮膚を縫合して手術を終了します。

(2) 皮膚弛緩症の場合―眉毛下皮膚切除術
皮膚のたるみが強く、睫毛(まつげ)の位置よりも下に垂れ下がっているような場合に本術式が適応になります。デザイン、局所麻酔後に眉毛の下の端に沿うように余った皮膚を切除し、その部分を丁寧に縫合します。術直後はキズが赤くなることがありますが、化粧で隠すことが出来る程度のものです。術後3ヶ月程経過すれば、キズも落ち着きます。キズ跡は眉の下のラインに沿うので目立つことはありません。この方法の場合、睫毛付近の皮膚を切除しないので、眼の雰囲気を大きく変化させることがありません。

手術後の経過

(1) 眼瞼挙筋腱膜前転法の場合
術後は程度の差はあるものの、瞼の腫れ・むくみ・内出血が生じます。とはいうものの、目が開けられないということはありません。ただし、車の運転などはお控えください。術後1、2日目には一度診察にお越しください。術後3日目前後が腫れやむくみのピークとなります。抜糸は5~7日目に行います。
術後1週間程度はかなり腫れ、術後2週間ぐらいで腫れ・内出血が引き、術後1ヶ月の診察時には一般的には気になる腫れはかなりの部分が治まっています。しかし、完全に腫れが治まるまでには2~3ヶ月かかります。その間は切開線とまつ毛の間の部分が腫れのため、二重の幅が予定のラインより広め(高め)に感じるかもしれませんが、腫れが治まるとともに予定された幅の二重になっていきます。
【挙筋腱膜前転法の利点と欠点】
この方法は、まぶたを引き上げる腱膜を短くするため、術後すぐに目の開けやすさを感じます。
また部分的には二重瞼の切開法と同じような方法でキズを縫っていきますので、二重のラインが取れてしまうということはほとんどありません。人によっては頭痛や肩こりも軽減する場合もあります。ただ、程度の差はあれ、術後の腫れや内出血は避けられないので、術後しばらくの間は大事な用が無いような時期を選ばれてから手術を受けられることをお勧めしています。

(2) 眉毛下皮膚切除術の手術後経過
眉毛下で切除するため、むくみ、腫れ、内出血は挙筋腱膜前転法に比べると少ないです。抜糸は5~7日目に行います。抜糸後よりキズの部分にも化粧をしていただくことが可能なので、手術跡も隠すことが出来ると思います。
【眉毛下皮膚切除術の利点と欠点】
最も腫れやすい瞼の下の部分(睫毛付近)にメスを入れないので術後の腫れ・内出血が挙筋腱膜前転法に比べると少ないです。人によっては抜糸時(術後5~7日目)に腫れがあまり気にならない状態になっている事もあります。また瞼の皮膚のたるみを取るだけなので、まぶたの印象を大きく変えることがありません。
しかし、眉毛下の皮膚を切除すると術前よりやや眉の位置が下降します。その結果、眉を描く位置をずらすようになると、手術跡が見えやすくなることがあります。
また、挙筋腱膜をこの方法では原則的に修正できないので、腱膜性眼瞼下垂症にはこの手術方法を選択することができません。